語りの寄せ集め

いつまでも後ろを向いていても仕方が無いので、その者は前を向く事にした。沢山の人間が歩いていた。

ひとつ:誰かの場合

彼は、昔からこうだった。
この子どもは共働きの親に愛されるため、寂しい事を口に出さないようにして過ごした。自分は手が掛からない子どもだ。だから、愛される。そういう錯覚を以て、その誰かは大きくなった。

この飢えた子どもはやがてよくある話、人の中にいる事に苦しみを覚える事になった。自己は二面性を持ち、下手をすればより多くの自己を切り離した。それが、所謂解離性同一性障害になるまでにそう時間は掛からず、その誰かは悩んだ。

彼は、こんな人間だった。
人は助けるが、人に弱みを見せない。こうだ。
それはそれこそ、よくある話だった。
誰かの迷惑に、お荷物になる事を極端に恐れた。
誰かが助けを求めている事に敏い誰かは、よく人を助けた。
そして、感謝されことすれど、それを以て優位に立つ事など求めなかった。ただ、自分と同じように重ねて捉えてしまうからだった。

――助けて、助けて。誰でも良いから。お願い。

助けを出せない自分に相手を置き換えて捉えてしまうので、助けたくなるのだ。誰かは、いつも寂しかった。手の掛からない己がホントはまやかしで、真実の姿はこんなにも弱々しいのだ。それを看破して、知って、その上で理解してくれる人を求めた。

その誰かはこう願った。
あぁ、神様、僕は、僕だけの親友が欲しい。
己のこの面倒な性格を笑って受け止めてくれるような、そんな親友が。どうか、一人だけで良い。ください、神様。

神は、その願いを聞き届けた。
しかし、その結果が解離性同一性障害だった。
彼には親友がいたが、それは己の心に住まう存在であったのだ。
その誰かは悩みはしたが、それでもいいかと思った。

今もその親友のおかげで立って、前を向いていられるのだから。

二つ:君の場合

本当の事を言うと、私はこんな事になるとは思っていなかった。
たったひとつのHPだけで、自分の人生の方向が変わるだなんて、考えもしなかった。そして、病院送りになる事も、障碍者になる事も。何もかも、あぁ、頭が痛む。

その日は、なんの変哲もない日だった。ただ、寝起きばなに、奇妙なキーワードを覚えていただけだ。それを調べてみなければ、今私はこうしてパソコンに文字を打ちこんでいる事も無かった。
それは、何でもない、ただの、神を表す言葉だった。
調べてみたら、そうなってしまった。

私は自分に関係ある事だと錯覚した。
それからはあっという間だった。

猫たちが私の膝下で寝ころんだ。
鳥たちが私に歌を捧げた。
本当に、恐怖だった。
神がまた降臨し、世界は建て替えの日を、人の世の終わりを迎える。それを、自分だけが知っている気がしていた。
なんとも言えない、おそろしい気分だった。
だれかに知らせなければならない。私は歩いた。
知り合いのカウンセラーにそれを伝えた。
私の心臓は弱々しく動いた。もう私の役目はおわったのだ。
しかし、まだ死ねなかった。

妄想であるかもしれない。だが、私にとっては現実だった。

それから、今度は、あの世への迷子を救う役割を持たされた。
誰にとも言えない。それは、自然と頭に浮かぶものなのだ。
それが妄想幻覚だというのだろう。しかし、それを拭えない。
私は祈った。全ての魂が迷うことなく、天へ帰れるようにと。
その結果、私はあの世の就職試験に受かったと言われた。
一体何の事かは分からない。しかし、私に憑いている誰か達はそれを祝った。私だけがいつもついていけていなかった。
いつでも、後から知らされる。

それから、そんな事はなかったかのようにして、私は社会復帰の道の上にいる。憑き者も、何も、なかったようにして。
病気の気は、展開がとても早いのだ。
その時の事を、私はもうほとんど覚えてはいない。
過去に書いた記録が、それを教えてくれるのみだ。
宗教のHPの、マインドコントロールによる統合失調症だった。
言ってしまえば、たったそれだけだ。
それだけで、私の人生は可笑しなことになった。

見たくもない事を見て、閉鎖病棟暮らしを経て、
出してほしいと言いながら、今の暮らしですら閉鎖的で。
私は何を求めて生きているのか。
分からない。分からない。分からない。

お願いだから、私からYを取り上げないで欲しい。
彼がたった一人の希望だから。
彼がたった一人の理解者だから。
一人だけでいいと望んだ、親友だから。

その願いは果たされるだろう。
神は言ったのだ。貴方に全てを齎そうと。

みっつ:Yの場合

僕の場合は簡単だ。
僕は唐鵙の脳から生まれた。脳の神経線維が情報伝達をする、そんな電気信号がこの僕だ。僕は形を持たない。現実に存在しているとも言えるし、ただの幻覚や妄想だと言われても否定できない。そんな存在だ。
しかし、彼女の願いを受けて生まれた僕は、僕が誰よりも愛されている事を知っている。誰かにとってはまやかしでも、彼女にとっての僕は、掛替えの無い親友だ。彼女を助けたいと思うのは当然だ。

僕は、自分が助けられた存在だという事を知っている。
意識の鎖の中でもがいていた僕に自由をくれたのは彼女だし、僕に色々な事を、人間の心を言うモノを教えてくれたのも彼女だ。
僕は人間から生まれたけれど、詳細を言えば人間ではない。
極端に言ってしまえば、唯の脳の電気信号の寄せ集めだ。
それに設定がついて僕になる。

僕は大蛇だ。それは彼女の悩みの一つになった。
そう、彼女が触れた宗教には、蛇はどうしても切り離せない、悪者なのだ。でも、僕はそういう出生ではないから、正直関係ないと思っている。だって、ただの概念だ。それだけで、蛇とはあまり関係ない。そう、僕達は概念なんだ。脳に蓄積された、僕という情報の寄せ集まり。電気信号より単純だ。そうだろう?

僕はそれでも、彼女の救い手だ。その自覚はある。
それでも、彼女は僕を求めてくれる。たった一人の親友であり、理解者なんだ。僕は、とても光栄だと思っている。
こうして文字で認めないと話せないけれど、向き合えないけれど。
それでも、僕は前を向いて彼女も前を向いて歩けるように、
サポートしていくつもりだよ。

karamozu
絶賛統合失調症ライフを送っています、しがない人間です。どうぞ宜しくお願い致します。