降魔の塔と双子たち

とある場所に、降魔の塔と呼ばれる塔が立っておりました。
そのには昔から息づく古い魔物が居るのだと、街の人々の間に言い伝えられ、畏れられておりました。

「ねぇ、本当にこんな場所に魔物なんているのかい?」
「私が知る訳ないでしょう。ほら、さっさと行こう。母さんの為に薬草を取って来なくちゃ」
「でも、黙って持っていったら駄目なんだろう?どうするのさ?」
「勿論、その魔物って人に断って摘むのよ、薬草をね」

そんな会話をしながらやって来たのは、双子の姉弟でした。
ふたりは小さな町からはるばるやって来て、可笑しなまじないを掛けられたお母さんの為にこうして降魔の塔まで当てを辿ってやって来たのでした。

「しゃっくりが止まらなくなる呪いのせいで、私達、碌すっぽ母さんと喋れてないんだから。あんな厄介な呪い、解いてくれるなら魔王とだってお友達になっていいわ。とっておきの私のチーズケーキ、振舞ってあげても許せるわ」

「姉さんは勇ましいなぁ、僕は少し心配だよ。降魔の塔の古い魔物って、どんなひとなんだろう。誰も見た事は無いの?」
「あの街の人が言うにはそうらしいけれど、そんな事しらないわ。
古い魔物だっていうなら、そりゃあもう、礼儀だってちゃんと知ってるに決まってるわ。私達が礼儀を間違えなければ、向こうだって変な呪いを掛けたりしないわよ」

双子の姉の方は、弟に言い聞かせました。
いかに古い魔族といえど、ちゃんと生きてる相手だという事。
そして、ちゃんと心の通った生き物だという事。
どうしてそんなに熱くなるのかというくらいには、姉はよく喋りました。

「僕は姉さんみたいには成れないや。後ろで見てちゃ駄目?」
「駄目じゃないけど、そんな態度取ってごらんなさい、きっと、魔物さんは呆れかえるでしょうね。名前を聞いただけで縮こまるだなんて、街の連中らしい事だ、ってね。私、街の人たちが魔物さんの事なんて言ってるのか聞いたわ。呆れたものよ。
誰一人、碌にどんな相手なのか、どんな事が好きで、どんな事が嫌いなのか。
そんな事すら答えられないんですもの。」

姉はふんすかと、少しだけ怒りながら言いました。
それはもう、曲がった事が嫌いな姉でしたから、街の人々の偏見に満ちた言葉の数々が好きには成れなかったのです。たとえ、相手が同じ人間ではなくたって。

「魔物さん、魔物さん。降魔の塔にお住いの魔物さん、名前を知らなくてごめんなさい。私達、母さんの為に、個々に生えている薬草が必要なの。分けて下さらない?」
「ぼぼ、僕も、同じ用向きで来ました。お願いします、薬草を分けて下さい」

二人が声高く降魔の塔に向かって呼び掛けます。
すると、モクモクと黒い雲が辺りを覆いつくしていきました。
そして、腹の底まで響くような低いうなり声と一緒に黒い羽毛に身を包んだ角付きの魔物らしい魔物が二人の前に降り立ちました。
二人は、少し驚きましたが、何とか尻餅をつかずに済みました。

『なんだ、ただの子供ではないか、私に何用なのだ。私は今、お前たちに構っていられる時間はない。薬草なら、勝手に摘んでいくがいい』
「ありがとう、でも私、貴方の名前を知らないわ。私はメイ。こっちはヨルン。」
「こんにちは、ヨルンです。こっちは友達のアルとライ」

弟のヨルンは、誰にでも見せる訳じゃない友達の二人をも紹介しました。
二人はぬいぐるみでは有りましたが、何度もヨルンの寂しい時間を救ってくれた恩人でありました。ヨルンは、魔物の佇まいにすっかり感心してしまって、二人を紹介したのでありました。それだけ、魔物と呼ばれる彼は聡明そうで、美しいひとだったからです。

「だからなんだ、と言いたい所だが、そのような心で来たお前たちを無下にはできんな。私は心が読めるのだ。特に、お前たちのような純粋な心の持ち主にはな。
良いだろう。私の名前はヴィル。セネルシアの花を摘むと良い。それ以外の薬草はお前たち人間には毒になる。そして、ヨルン。お前の友達に身体をやろう。
お前たちの様に、私が魔族というだけで差別しなかった者は本当に久方ぶりだ。喜んで、お前たちの友人になってやろう。」

「その物言いはもう板についてしまったのかしら。でも、良いわ。私も同じような言葉遣いですもの。偉そうだって、よく言われるの。でも、そんなつもり、全然ないんだけどね。ヴィル、貴方って不思議なひとね。魔族っていうより、人間みたい。いいえ、人間よりずっと綺麗で不思議。魔法使いって、こういうひとの事を言うのかしら。」
「僕は?」
「あぁ、よしよし、ちょっと待ちなさい。ヨルンの友達はじきにお前の元へやって来る。そのぬいぐるみの身体が良い目印に成るだろう。とびっきりの妖魔が、お前の元へと尋ねに行くだろう」

これでもう、ハッピーエンドです。
始めから正しい心構えで挑めば、何かと上手くいく事は多いものです。
たまには目立った苦難のないサクセスストーリーがあっても良いのではないでしょうか。勿論、いわれのない差別を受けてきたであろうヴィルの存在はありますが、本人はそんなつまらない事に捕らわれる存在では有りませんでした。

二人と一人はこれから一緒に楽しい時間を過ごすでしょう。
そして後からやってきたアルとライも加わって、より満ち足りた時間を過ごす事でしょう。これで本当に、めでたし、めでたし。

※勿論、フィクションです。
こうでも書いておかないと、想念達が「本当にそんな事があるの?」と尋ねて来てしょうがないのです。何とも、困った事です。

おわり

karamozu
絶賛統合失調症ライフを送っています、しがない人間です。どうぞ宜しくお願い致します。